News and Events

私の舞姫論「豊太郎は本当にエリスを愛していたのか」
Posted 01/15/2018 12:30PM

江頭叙那

 豊太郎は心からエリスを愛していたのだろうか。なぜこのように疑問に思ったかというと、相沢が豊太郎とエリスの恋愛について、「慣習といふ一種の惰性により生じたる交なり。」と豊太郎に伝えているからである。私は、豊太郎は、エリスのことを心からは愛しておらず、豊太郎とエリスの関係は相沢の言うとおり、慣習という一種の惰性から生じた関係である、と考える。

 豊太郎は、エリスとの噂によって免官となってしまうが、心のなかでは、国に戻って名誉を回復したいとも常に思っていた。私が豊太郎はエリスのことを心から愛していなかったと考える理由の一つは、豊太郎が名誉の回復という野望を持っていたために、エリスに嘘をついていたからである。豊太郎は、大臣と相沢に呼ばれていることをエリスに対しては、「政治社会などに出でんの望みは断つより幾年をか経ぬるを。大臣は見たくもなし。唯年久しく別れたりしともにこそ逢ひには行け。」と言っている。もし豊太郎が心からエリスのことを愛していたのならば、エリスに嘘をつき、大臣に会いに行くことなどしなかったはずである。

 豊太郎がエリスのことを心から愛していなかったと言える次の理由として、豊太郎がエリスのことを深く考えず、大臣の命令に従っているという点がある。大臣が豊太郎に対して、「余は明旦、露西亜に向ひて出発すべし。随ひて来べきか。」と聞いた時、豊太郎は「いかで命に従はざらむ。」と答えた。豊太郎は、答えの範囲をよく考えもせず、直ちに承諾することがあると言っているが、エリスが妊娠しているかもしれない状態の時に、先のことを考えずに承諾してしまうのは、豊太郎がエリスのことを一番に考えていない証拠である。

 エリスが相沢から豊太郎の約束と、大臣への承諾を聞いて発狂したあと、豊太郎は生ける屍となったエリスを抱きしめて何度となく涙を注いだ、とある。しかし、結局、豊太郎は子供を胎内に残したままのエリスを見捨てて日本へと帰国した。エリスが発狂してしまったのは明らかに豊太郎のせいであり、豊太郎は、貧しく頼る人のいないエリスを妊娠させてしまったのだから、豊太郎はエリスに対して責任を持たなければいけない。

 以上の理由から、私は、豊太郎はエリスのことを心から愛していなかった、と考える。豊太郎は、幾度となく、エリスと自分の国と名誉について、どちらを優先するか悩んだ結果、エリスは発狂してしまう。しかし、元々は、豊太郎がエリスのことを心から愛していて、一番に考えていれば、エリスが発狂することもなく、二人は幸せに暮らしていけたはずである。

Footer Logo Image

All images © 2013-2017 Keio Academy of New York

Address/Telephone

3 College Road
Purchase, NY 10577 USA
Phone: (914) 694-4825

Stay Connected

powered by finalsite