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私の舞姫論「あまり描かれなかったエリスの内心とは」
Posted 01/15/2018 12:26PM

坂井賢一

 多くの小説にはヒロインというものが存在する。その心のうちは、多く描写されるのがメジャーではあるが、森鴎外作の有名な小説、『舞姫』では、主に主人公である太田豊太郎の内面が多種多様に描かれている一方、ヒロインであるエリスの内面は、あまり詳しくは書かれていない。今まで触れて来られなかったエリスの知られざる内心を、読者の目線からではあるが、考察してみたいと思う。

 この小説では、登場シーンは多いものの、エリスの表向きな感情しか描かれていない。例えば、はじめて泣きながら豊太郎と出会ったシーンでは、か弱い女の子であるというイメージを誰もが持ったであろう。確かに、お金を必要とし、自らの体を売らなければいけないかもしれないという状況、心が弱まり、あのような振る舞いをするのも理解し難いことではない。しかし、内面はどうであろうか。理不尽な考察かもしれないが、正直、豊太郎の存在を、絶好のチャンスと思ったのではないであろうか。ビクトリア座で二番人気を得ていた女性が、自分の容姿を把握していないとは思えない。困って泣いていた時に、官僚という役職を持った人間が、情を抱きながら自分に話しかけてくれた。これはあくまでも考察であるゆえ、断定はできないが、多少ではあるが、自らの容姿を武器に逃せないチャンスの獲得を、試みていたのではないであろうか。むしろ、それが人間の摂理と言えるであろう。

 また、この小説には、他にもエリスの内面を語るに当たって、趣深い描写がある。それは、豊太郎が天方大臣に連れられ、ロシアに赴いた時のことである。豊太郎がロシアに行った際、エリスの内面では、豊太郎が出世するにあたって、富と名声を取り戻し、自分を捨てるのではないであろうか、と言う複雑な彼女の感情を読み取ることができる。このシーンでは、その他にも、豊太郎の男性としての心理につけ込み、捨てられるリスクを必死に下げようとしているエリスの心理が見られる。手紙の内容に、「妊娠しているかも知れない。でもそうでなくともないでください。」や、「母は自分たちのために行動を起こしてくれると言ってくれている。」といったような、いわば豊太郎によって、エリスの人生が今後左右されれてしまう、というアピールを、遠回しにしているのである。卑劣な行為であるともいいえるが、当時の彼女にとって豊太郎がいかに必要な存在であったか、そしてなんとしても引き止めなければいけない人間である、とういうことがわかる。

 これらのことから、エリスは豊太郎を愛していたものの、かなり依存していたのではないか、と思われる。森鴎外の『舞姫』は、豊太郎の揺れ動く心がよく読み取れる。その一方で、あまり他の登場人物に、スポットライトが当たっていないのも事実である。読者としては、色々な視点から物語を考察してみるのも面白いかもしれない。

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