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15 北村幸太郎のやることは全部正しい
Posted 03/23/2018 07:03PM

 「北村幸太郎のやることは全部正しい法」という法律が日本で施行された。その法律の内容は北村幸太郎がすることのすべてが合法で、彼が誰かになにかを命じた場合、その誰かは必ず彼の命じたことをやらなければいけないというものだ。例えば、もし彼がある人に死んでくれと頼んだら、その人は死ななければならないのだ。もし、彼の命令に背いたら、その人は日本の司法で裁かれ、良くても無期懲役、悪ければ死刑が課せられる。こんなメチャクチャな法律を誰が作ったのかは知らない。俺が20歳になった年から施行され、いつの間にかみんなそれに従っていた。そして、俺がその北村幸太郎だ。

  「北村幸太郎のやることは全部正しい法」の北村幸太郎すら、なぜこんな法が出来たかわからないのだ。本当にメチャクチャだ。意味がわからない。日本の三権分立はどうなっているのだ。こんな頭のおかしい法律、誰かが止めるはずだろう。一体誰がなんのためにこんなふざけた法律を作ったのか不思議でならない。だがそんなことはどうでもいい。俺が20歳から今まで、この法律にどう翻弄されたか今から話していきたい。
 

 俺はあの日20歳の誕生日を迎えていた。友達や彼女に祝われ、初めて飲むビールの苦さに顔をしかめながらも、大事な人たちと人生で一番楽しい時間を過ごしてはいなかった。そんな充実した人生楽しんでる野郎たちとは、正反対に俺は一人寂しく濁った月の浮かぶ東京の空の下をフラフラと歩いていた。二度の大学受験の失敗を経験が、もともとくらかった俺の性格に拍車をかけ、その頃の俺は陰気でひねくれていた。そんな、人間に友達、ましてや彼女などおらず、家族すらも俺を邪魔者扱いされ一人暮らしており、誕生日を祝ってくれるような人は一人もいなかった。心は深海の奥底に沈み、死にさえ憧れを持っていた。部屋に一人でいると自殺しそうだったので、どこか人のいるところも求めて夜道を歩いていた。20メートルおきに置かれた電灯がこれから5秒先に通るであろう暗い道を照らしていた。10分ほど歩いていると、ラーメン屋が見えた。俺はなんの迷いもなくそのラーメン屋の中に飛び込んだ。笑顔の温かい店主にチャーハンを頼んだあと、待っている間天井の隅に設置されたテレビのニュース番組を見ていた。するとその明るい画面の中に俺の顔がなんの前触れもなく映し出された。そして、ニュースキャスターは真面目な顔で
「北村幸太郎のやることは全部正しい法が、国会により施行されました」
と言った。俺はつい口に含んでいた水を吹き出してしまった。

 

 「北村幸太郎のやることは全部正しい法」が施行さえて約1年がたった頃には、俺はすべてを手にしていた。そりゃそうだろう。こんな法律が施行されてすべてを手にしない方がおかしい。金、女、そして地位、すべてをこの手の中に収めた。日本は俺、北村幸太郎をトップとする独裁政治に政治方針を方向転換し、国名も「日本」から「北村の天国」に改名した。日本の約6000万にいる女性皆を嫁に迎い入れ、国家予算である92兆円を思うがままに使った。その財政力を使ってめちゃくちゃなことをした。文字通り本当にメチャクチャなことだ。日本海を着色料を使い、俺の好きな緑色にし、北海道に石油を撒き散らし、火をつけて火の大陸にした。そして、東京から富士山がきれいに見れるように、ビルをすべて壊した。俺の権力を目にした人々は、俺に媚びへつらい、俺の言うことをすべて聞いた。俺の言うことさえ聞いていれば何でもしてもらえるからだ。俺はそういう奴らを「北村に媚びへつらう隊」と名付けた。俺の高校時代の同級生は俺のことを昔の友だといい、俺に近づいてきた。一回も話したことがないようなやつまで、そう言って近づいてきた。俺の周りには人が集まり、もう孤独でないことを知った。俺はもう一人夜道を歩くことなど一生ないのだ。人生の最高潮を迎えた。
 
 

 「北村幸太郎のやることは全部正しい法」が施行されて3年がたった。俺があまりにもめちゃくちゃにしたせいで、日本の経済は破綻しかけていた。国民は皆、苦しい生活を強いられていた。そして事件が起きた。
 いつも通り、朝、北村宮殿で目を覚ますと、外で銃声が聞こえた。何事かと思い外を見てみると、武装した大群が俺の宮殿に押しかけてきていた。国民が密かに北村反乱軍を結成し俺の暗殺を目的に、俺の宮殿に押しかけてきていたのだ。「北村を出せ」と大声を発している反乱軍の目は怒りに満ちていた。俺は自衛隊に守られながら、宮殿を脱出した。
 

 それから数時間後反乱軍は北村政府に対して宣戦布告し、北村の天国で内戦が開戦した。戦争は激しく国中が火の海になった。俺の政府は軍事的に反乱軍に勝っており、政府側が優勢であった。北村に媚びへつらう隊は反乱軍を説得するために演説をした。その内容がこうだ。

 「北村幸太郎に媚さえ売っていれば、なんでもしてもらえるのになぜ反乱しているのだ。もし貧困に困っているのであれば、北村に媚を売ればいいのだ。今なにか苦しいことがあるのは、北村に媚を売る努力をしない結果からくるものなのだ」というものだ。俺は確かにそうだなと納得した。それとともに孤独を感じた。俺の味方をし、媚を売っている奴らは皆自分に利益があるから俺に関わり俺の取り巻きをしているのだと感じた。俺の周りには北村に媚びへつらう隊が常にいて、俺は孤独ではないのだと思っていたが、実際は違ったのだ。俺の周りの奴らは自分のために俺と付き合っているだけで、俺のことを本当の意味で愛し、友と思っている人はこの世に誰一人としていないのだ。

 それを感じた瞬間、俺の味方は俺自身だけなのだと悟り、孤独を感じた。心が深海に沈んで行くのを感じた。結局、信用できるのは自分だけなのだ。あの法律ができる前から、それは感じていたことだ。人の優しさの裏には必ずなにか思惑が隠れているのだ。誰かが他の誰かに優しくするのはその誰かにとってなにか利益があるからなのだ。人間はもとより皆、一生孤独なのだ。こんな当たり前の事を忘れていた。俺は皆に優しくされ舞い上がり、本当は自分が孤独であることを忘れていた。
 

 俺を殺すことを、国民皆に、命じた。こんな孤独な世界は生きていてもしょうがない。そう思ったからだ。
 

 北村幸太郎は殺された。脳天を銃で撃ち抜かれた。痛みはなかった。

 

 今この話をなにもない暗い空間で俺は話している。これが死後の世界というやつなのかは知らないが、とにかくなんにもない。この空間で俺は一体どのくらいの時間を過ごしたのかはわからないが、途方もない時間を過ごしたということだけはわかる。その膨大な時間の中で、俺はいろいろなことを考えた。そしてある疑問を抱いた。人とは本当は一生孤独ではないのではないか、という疑問をだ。本当の友情、本当の愛、本当の優しさとは存在するのではないか、と思った。ただ俺があの短い人生の中で、それを見つけられなかっただけなのではないか。それを感じられる出会いがなかったのではないか。あんなふざけた法律に翻弄される人生ではなく、もっと普通の人生を歩んでいればそういう出会いがあったのではないか。そう思った。俺はまだ本当の友情、本当の愛、本当の優しさが存在しているのかは知らない。知るすべもない。俺にとってそれらは伝説の存在で、ユニコーンと同じレベルのものだ。前世ではそんなユニコーンのようなものとの出会いはなかった。けれどもきっと来世は。。。。

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