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17 僕の奇妙な大晦日
Posted 03/23/2018 07:39PM

 『岐阜県、白川村、明善寺です。』

テレビがいった。静かな雪景色の中に厳かなお寺が映し出され、鐘の音だけが鳴り響く。お寺の隣にある古民家では地元の人が集まって、囲炉裏の回りで話しているのが見える。


 小さい頃からそうだったせいか、僕は大晦日の年越しは紅白からの「ゆく年くる年」を見ないと落ち着くことができない。今年の紅白は紅組が勝った。3年ぶりだそうだ。

 目をつぶって、ゆっくりとお茶をすすり、今年一年を振り返る。2019年はいろいろなことが起こりすぎて、本当にあっという間だった。大学を卒業してから上京し、小さな広告代理店に就職。決していい給料とは言えないが、同僚も上司も優しい人ばかりだし、社長さんも社員一人一人のことをすごく気にかけてくれる。初めての給料で衝動買いしたタグホイヤーの腕時計は、少し高かったけれど、僕の宝物だ。

 仕事が忙しくて年末に実家に帰れないのは親に申し訳ないけれど、仕方がない。来年はどうなるかな。少しくらいは昇進できるだろうか。昇進したら給料もあがるな、何に使おうか。

 そんなことを考えてる間もお寺や神社の紹介は流れていく。

 そしてとうとうコタツの上の電波時計は23時59分をさし、テレビにはお坊さんが梵鐘の前に立つ姿が映し出された。年越しだ。2020年が来る。期待と希望に満ちた2020年が、、、5、4、3、2、1、、、0!

『おめでとー!』


 あれ?

 テレビから聞こえてきた言葉に僕は違和感を覚えた。アナウンサーにしては随分ラフな言い方だ。普通、新年あけましておめでとうございます!とか言うのに。どうしたのかな。

『おめでとー!ここは東京都七王子市中原町タウンハイツ303号室!』

 またアナウンサーが軽快な声でそう言った。何かがおかしい。放送事故にしては長すぎるし、もしこのアナウンサーの気が狂っているだけだったら、誰かスタッフが止めに来るはずだ。そして最大の謎は、なぜこのアナウンサーが、僕の家の住所を叫んでいるのかということだ。しかも全国区の番組で。ってかまずなんで住所を知っているのかが問題だ。

 考えていると少し怖くなったので、僕はテレビを消そうとリモコンに手をのばした。するとまた、テレビから叫ぶような声が聞こえた。

『にいちゃん、ちょっと待ちな!今そっちいくから!!』

次の瞬間、信じられないことが起きた。突然テレビの画面がウネウネと湾曲し始め、まるでCGのように画面の中央が突起しだしたのだ。なにかがテレビから出てこようとしている。

「うわああああああああああああ!!!!く、来るなぁあああああ」

 生まれて初めて腰が抜けて動けないという感覚に陥った。ああ、僕はこれから出て来る何かに襲われて死ぬのだろうか。せっかく2020年も頑張ろうと意気込んでたところなのに、まだ死にたくない、、、

「死にたくないよおおおおお!」

「だれもお前のこと殺しゃあしねえよ」

テレビのスピーカー越しではない、リアルな声が聞こえた。

「へ?」

 恐る恐るテレビの方へ目を向けると、なんとそこには子グマが立っていた。

「ふー、なんか狭っちいとこだなぁ」

 子グマはテクテクと歩きながら部屋を物色し始めた。いや、正確には子グマに近い生き物と言ったほうがいいかもしれない。赤いバンダナに緑のズボン、右手には何故か槍を持っており、お尻におまんじゅうのような尻尾がついている。身長は60cmほどで、目はクリクリ、頭でっかちの二頭身。一言で言うとゆるい。

 あまりにも突然のことだったということと、もっと恐ろしい怪物がでてくるかと思っていた予想が裏切られたことが重なって、僕はひどく混乱していた。

 自分で顔をパンパン叩いて、どうにか落ち着きを取り戻し、恐る恐る子グマに声をかける。

「お前、、、何?」

部屋を物色していた子グマは、はっと何かを思い出したようにこっちを見て言った。

「あ、驚かせて悪かったな!決して怪しいもんじゃないよ」

怪しすぎる。年越しの瞬間にTVからでてきた喋る子グマのどこが怪しくないというのだろうか。

「おれの名前はバウワウ。神様専属の幸分者(ギュアー)の一人だ。今回はお前が選ばれたんだぜ、もっと喜べよ!」

 やっぱり僕は夢でも見ているのだろうか。こいつがテレビから出てきたあたり、この世のものではないというのは理解できるが、その他のことはさっぱりだ。

「分かってないようだな。しょうがねーなー、メンドくさいけど説明してやるよ。」

バウワウと名乗る子グマはそう言うとコタツの上によじ登り、僕の目を見て喋り始めた。

「この世は神様が作ったってのは知ってるよな?」

、、、、知らなかった。まあいい、話に集中しよう。

「はるか昔、神様はみんなが平等に幸せに暮らせる世界を願ってこの世を作った。始めの数万年間は人間たちもうまくやってたんだけど、あるモノを手にしてから世界は徐々に平等じゃなくなった。何だかわかるか?」

「あるモノ?うーん、お金?」

「ブー。センスなし。」

こいつ口が悪いな、と思ったが声に出しては言えない。

「正解は文明だ。」

 バウワウは丸い目を鋭くしてそう言った。

 僕は妙に納得してしまった。確かに文明というのは人を豊かにしたけれども、貧富の差という概念が生まれた原点であるとも言える。バウワウは続けた。

「文明を手にしてから人間たちの社会はひどかった。富める者だけが救われ、富める者だけのための世界になってしまった。そんな世界を見て心を痛めた神様が作ったのが俺ら幸分者だ。幸分者は富裕層ではない人間の所に現れてそいつの願いを叶えるんだ。つまり今回は運良くお前が選ばれたってわけよ。」

「ほー、、、」

嘘のような話だが、今はこいつの言うことを信じるしかない。まだ頭が少し混乱しているが、この世には理屈では説明がつかないものもたくさんある。僕はとりあえずこの状況を受け入れることにした。


「で、他、なにか質問ある?」

バウワウは面倒くさそうに言った。

 質問したいことだらけだよ、と思ったが、僕は話を聞いていて、一番最初に思い浮かんだ疑問を尋ねた。

「バウワウはさっき、富裕層ではない人間のところに現れるって言ってたけど、そんな人たくさんいるじゃん?幸分者が現れる条件とかはあるの?」

「おお、いい質問だね。」

バウワウはパッと顔色を変えてそう言うと、右手に持ってる槍を置き、コタツの上であぐらをかき始めた。

「誰のところに現れるかは、おれが気分で適当に決めてる。まあ巡り合わせってことだよね。でも、当然出現できる条件は決まってるよ。幸分者にもいろいろな種類があって、俺の場合は、年号の下二桁と上二桁が同じ数字になる年にしかこの世に来れない、レアな幸分者なんだ。その分魔力も強いから他の幸分者と違って、どんな願いごとも叶えられるんだぜ!?」

 「レアな幸分者」と言う時に、バウワウが少しドヤ顔をしたのを僕は見逃さなかった。

「そっか、今年は2020年で20と20が同じだからこの世に現れたっていうことか。ん?ってことは一番最初にこの世に来たのは1010年!?」

「そうだよ。そん時から101年サイクルでこっちに来てる。まあ自慢じゃないけど、おれがこの世に来て叶えてあげた願いごとって大概人間たちの歴史に影響を与えてるんだよねー。」

 バウワウはまたドヤ顔で言った。ちょっとムカつくけどれど、見た目が可愛いのでついつい許してしまう。

「まじで!?例えば何したの?」

「えーっと、有名なのでいくと、、、1616年のときかな?徳川家康って知ってる?」

「おお!もちろん!!日本人なら誰もが知ってる超有名戦国武将だよ」

「そうそれそれ。その徳川家康って、晩年天ぷら食いすぎて胃ガンになって死んだってされてるんだけどさ、実はあれ、おれの仕業なんだよね。」

「えええええええ!!ダメじゃん、人殺しちゃ!!」

「仕方ないだろー、たまたまその時選ばれた人が大阪夏の陣から生き延びた豊臣側の人間で、『憎き徳川家康を殺してくれぇ!』って頼むからさー、、、俺だって本当は嫌だったよ、、」

バウワウはさっきのドヤ顔とは打って変わって困ったような顔でそう言った。口は悪いが根はきっと優しいやつなんだろう。かわいそうなことを思い出させてしまったようだし話題を変えてあげなきゃ。

「え、じゃあ、他にもなんかある?」

「うーんそうだなー、えーっと、、、あ、そういやチリがスペインから独立するのを助けたな。たしか1818年だったっけ。」

「うぉぉ、ワールドワイド!日本だけじゃないんだね。」

「あったぼーよ!おれは数百年前からグローバリズムやってんだぜ。ここ数年日本で話題のな!」

、、、、ちょっと何を言っているのかよく分からないが、とりあえずここは微笑んでおこう。

 しかしながらバウワウの知識の深さには本当に驚かされる。やはり神様は常にこの世を監視しているのだろうか。


「あ、もう一個すげーのがあった。これは前回こっちに来た時だから、1919年かな、、、」

バウワウはクリクリの目を大きくして言った。これはよっぽどすごいことをした自信があるのだろう。

 よく考えてみると確かに1919年あたりといえば第一次世界大戦の直後だし、欧米列強のパワーバランスが崩れ始めた激動の時代だ。きっととんでもないことをしたに違いない。

一体何をしたんだろう?

 バウワウの口からどんなトンデモない事実がでてくるのかと思うと少し緊張してきた。自分の心音が大きくなっていくのが聞こえる。僕は唾をゴクリと飲み込んだ。

「やっぱ、これ言ったらまずいかな?」

「いいからもったいぶってないで早く教えてよ!」

「はいはい。じゃあ驚くなよ、実はね、、、作っちゃったんですよ。」

「何を?」

「ほら、あれ、日本人なら誰もが知ってるあれだよ」

「もーなんなんだよー、教えてってば!!」

「わかったわかった、お前、キューピーって知ってる?」

「え?キューピー?」

想像していたような言葉とは全く違う言葉がでてきたので、僕は呆気にとられてしまった。

「マヨネーズのキューピーでしょ?知ってるけど、、、え!なに、まさか、バウワウが作ったっていうの!?」

「そうでーす!どうだ、すごいだろ!!」

どういう反応をすればいいのかわからない。これはすごい、、んだろうけど、なんかもっとこう、、色々な歴史的事件を期待していた自分にとってはすごい微妙だ。絶妙に「すごい」と「どうでもいい」の狭間をついてきた。

「なんか納得いかない顔してるな。さてはお前、キューピーのことバカにしてるだろ。」

「バ、バカになんかしてないよ、、」

「お前、キューピーがなかったら今の日本のマヨネーズ界はなかったんだぞ!!!」

バウワウは目をキッと細くして怒った。マヨネーズへの思い入れがすごい。自分がしたことをけなされたと思ったのだろうか、いや、もしかしたら単純にマヨネーズが好きなだけなのかもしれない。

 

 バウワウはぶつぶついいながら立ち上がってコタツを降り、もう一度僕の方を見て言った。

「まあいいわ、これでおれがいろんな奴の野望を叶えてきたってことが分かっただろ。で、今回はお前の番だ。なんでも願いごとを叶えてやる。言ってみろ」

「願いごと、、、、」

 僕は黙ってしまった。いきなりすぎて頭が混乱してたのか、理由はよくわからない、でも僕は黙り込んでしまった。

「まあ、叶えられる願い事は一つだからな。よく考えるといい。いくらでも待ってやるよ。」

バウワウは突然黙りはじめた僕にそう言うと、また部屋の中を物色し始めた。


 僕は考えた。

 願い事か。無いわけではない。むしろ心のそこから切望してる願いがある。ずっと昔から願ってきた夢だ。僕の将来の夢。


 バウワウに頼め。


自分に言った。バウワウに言えば叶うんだ。なにをためらう必要がある?こんなチャンスは二度とやってこない。僕は選ばれたんだ。

 

 ちょっと待ってよ、よく考えてーーー


 心の中の自分が何か言った。何かひっかかること。何だろうこの気持ちは。なぜすっと願い事を言えないのか。僕は一体どうすればいいんだ。


 しばらくしてから僕はようやく口を開いた。

「バウワウ、おまたせ」

 部屋の隅にある電子レンジを興味深そうに見ていたバウワウは、こっちにテクテク歩いて戻ってきて、またコタツの上に座った。

「やっと決まったんだな。で、願い事はなんだ?」

僕は目をつぶってフーっと息を吐いて深呼吸をした。そしてゆっくりと目を開けて、言った。

「願い事は、ないよ」

「は!?」


 場の空気が一瞬固まり、バウワウは、まるでこの世のものではないものを見るかのように、僕を見つめた。

「どういうことだよ!?何バカなこと言ってるんだ!」

「僕には夢がある。小学生のころからの夢。ずっと追いかけてきた将来の夢が、、、」

「なんだよ、それ願い事じゃねーか!おれがその夢とやら叶えてやるから、早くそれを教えーーー」

「違うんだ!!」

僕がいきなり大きな声で叫んだのでバウワウはビクッと体を震わせて動きを止めた。

「違うんだ、、それじゃダメなんだよ、、、。僕は今までその夢を追いかけて努力してきた。途中何度もあきらめかけたけど、その度になんとか自分を奮い立たせて頑張って前を向き続けてきたんだ、いつかかならず夢が叶うってことを信じて、、、。」

バウワウは黙り込んで僕の話を聞いている。

「だから、君がなんでも願い事を叶えられるって知った時すごく嬉しかった。ようやくその夢が叶うって思ったら、その嬉しさといったら言葉じゃ表せれないくらい。でも、いざ願いを言って僕の夢を叶えてもらおうとした時に、僕は思った。本当にこれでいいんだろうかって。君のすばらしい力に頼ってしまったら、それは過去の僕の努力を裏切ることになるんじゃないか、って。だから僕は君にお願いすることはできない、、、夢ってのは自分だけの力で、自分自身で叶えなきゃダメなんだよ。自分でやることに意味があるんだ。だからーーー」 

「分かった。お前の夢をおれが叶えてはいけないっていうのは、分かった」

今度はバウワウが僕を遮って言った。

「でもよ、他に何か願い事あるだろ?おれら幸分者は選ばれた人間を幸せにしなきゃいけないんだよ。じゃないと、あの世に帰ってから神様に叱られちまうんだ。」

バウワウは手をすり合わせながら、困った顔で僕を見つめながらそう言った。

「ほら、お願いだからおれを助けるつもりだと思って、なにかお願いしてくれよー」

「大丈夫。そのことだったら何にも問題ないよ」

僕はにっこり笑って言った。

「へ?なんで?」

バウワウは今度はキョトンとして僕を見た。ぼくの一言一言で、コロコロ顔が変わる、本当に表情豊かな奴だ。僕もコタツの中に伸ばしていた足を引っ込めて、バウワウと同じようにあぐらをかいた。

「だって僕はもう幸せだから」

「え?」

またしてもバウワウはキョトンとして僕を見る。

「じゃあ何、バウワウは僕が幸せじゃないって思ってるの?」

「え、だって、、、」

バウワウは少し考えてから言った。

「お金をいっぱいもってて、社会的にも高い地位を得て、自分が楽しくて好きなことをやって過ごすことが人間にとっての幸せなんじゃないの?」

僕は頷きこう答えた。

「それも幸せの一つかもしれない。でもね、それはあくまでもバウワウの考える幸せであって、僕にとっての幸せだとは限らないんだよ。人間ってのはみんな一人一人違う価値観を持っていて、幸せの価値観にもまた人それぞれある。バウワウが自分の価値観を勝手に他人に押し付けちゃったら。その人は幸せじゃなくなっちゃうかもしれない。今の自分が幸せか幸せじゃないかは本人が決めることなんだよ」

バウワウはまた黙りこんで僕の話を聞いていた。

「僕はお金持ちではないし、社会的な地位もまだなにも持ってない。けどね、自分がやりたいことを応援してくれる親に恵まれて、会社での人間関係も良好で、一歩づつ自分の夢に近づいていけている。もちろん大変なこともあるけど、別に生きていくのに困るほどのことはない、それだけで僕は十分幸せもんだよ。そりゃお金持ちになりたいし、社会的な地位もくれるなら欲しいさ。でも、世の中にはその人が全く悪いわけではないのに、生まれた環境が悪かったせいで毎日を生きぬくのに必死な人たちがたくさんいる。そういう人にこそ幸せってのをを分けてあげるべきなんじゃないかな。バウワウはそういう人のところに行って願いを叶えてあげるべきなんじゃないかな」

そう僕が言い終えた次の瞬間、バウワウはバッと急に顔を塞ぎ込み、小刻みに震え出した。

「え?どうしたの?」

「ウッ、グスン、、、ウウッ、、、おっお前、い、良いやつだなぁぁああ!感動じだぁぁぁ。うわあああああん」

みるとバウワウの目から涙が滝のように流れている。僕の話を聞いて泣いているのか。一体どんだけピュアなやつなんだろうか。

「うっ、うう、た、確かにお前のいう通り、おれはおれが思う幸せを勝手にお前に押し付けるのはよくないよな。お前が今に満足しているならそれでいいんだよな」

僕はバウワウにティッシュを渡した。バウワウはありがとうと言って涙を拭き始めた。追加でもう二、三枚ティッシュをとって、ついでに鼻をかんでから、ようやく落ち着いたのかバウワウはフーっと息をはいた。

「お前見たいなこと言うやつ、初めてみたよ。神様も今お前が言ったこと聞いたらきっとすごく喜ぶと思う。こういう真っ直ぐな考えをもつ人間もいるんだって」

「そう?それは嬉しいな」

神様の使いに褒めてもらえる人間なんてそうそういない。これはとても光栄なことだ。


 しばらくの間お互い沈黙が続いた。お互い理由は分かっていた。

 最初に口を開いたのはバウワウだった。

「じゃあ、願いがないならここに長居する理由もないし、おれはそろそろ帰るわ」

少し間があって僕は答えた。

「うん。そうだね」

出会ってから小一時間ほどしか経っていないが、僕はバウワウと別れるのが辛かった。口は悪いかもしれないけれど、ピュアで本当に根が良いやつだ。もう会えなくなるのだと思うとものすごくさみしく思えた。

「また、、、、会えるかな」

「さてはお前、おれと別れるのが辛いか?」

バウワウはニシシと笑って言った。

「お前が死ねば、あの世で運良く会えるかもよ。人間は死んだら魂が抜けて一度は神様のとこへ会いにいくシステムになってるからな」

そんなシステムだったのか。死後の世界なんて考えたこともなかった。

「そっか、じゃあ六、七十年後くらいだね」

「意外とぽっくり早死にするかもよ?」

「嫌だよそんなの!!そんな縁起悪いこと言うなよ!!」

バウワウはケラケラ笑っている。最後の最後までムカつくやつだ。別れるのが辛いと思った気持ちを返して欲しい。


 「じゃ、夢に向かって頑張れよ。」

 バウワウはそう言うと横にあった槍をとってコタツを降りた。

「あ、一つ言うの忘れてた。最後にこれだけ言っておくわ」

「なに、、、?」


「お前と出会えてよかった」

バウワウは少し間をおいて言った。

 最後にそんなことを言うのはずるい。僕は泣くのを必死にこらえて、ニコッと笑った。

「僕もだよ。またね、バウワウ」

「ああ、またな」

バウワウは槍の柄の部分で床をコンコンコンと三回叩いた。

すると突然部屋がぐにゃぐにゃと曲がり始めた。だんだん意識が遠のいていくのがわかる。体が落ちていく感覚、、、下へ下へ下へ、、、、、、、


『新年あけましておめでとうございます!』

アナウンサーの威勢の良い声を聞いて僕は目を覚ました。どうやらテレビをつけっぱなしでコタツで寝てしまったようだ。元旦のお笑い番組でも始まった時間だろうか。そう思って時計を見ると「0:00」と表示されている。

ん?

もう一度時計を見るとはっきりと「0:00」と表示されている。あ、今「0:01」になった。

よく見るとテレビには元旦のお笑い番組ではなく、そこには年明け後のゆく年くる年が流れていた。

つまり僕は夢を見ていたということなのか??


 こうして僕の2020年は少し奇妙な体験とともに幕を開けた。元旦から仕事があったので結局あの後すぐ寝てしまい、あまり何が起こったかよく覚えてはない。けれどもあれからしばらくたった今でも僕はバウワウを信じている。ちなみにこの話はまだ誰にも話していない。話したとしても証拠がないので誰も信じてくれないだろう。

 過去の先人たちにとっては、バウワウとの出会いがその人の人生を大きく変えたかもしれないが、僕の場合は何も影響はなかった。ただいつも通りの日常が過ぎて言った。でもそれが僕にとっての幸せだ。今も仕事と両立を図りながらひたすらに夢を追いかけて勉強をしている。これで良かったんだと思う。

 あ、一つだけバウワウと出会ってから変わったことがあった。よく道端でお金を拾うようになったのだ。多いときは1日に3回も拾うこともある。その度に僕はコンビニのレジの横にある募金箱へチャリンと拾ったお金を入れるのだ。

 これがバウワウの仕業かどうかは誰にもわからない。けれど僕にとっては、お金を拾う僕を見たバウワウが、草葉の陰からケラケラ笑っているように思えてしかたがない。

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