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私の舞姫論「豊太郎の正体」
Posted 02/13/2019 02:40PM

『舞姫』という作品は、一体誰に向けて書かれたものなのだろうか。主人公である太田豊太郎は、愛するエリスに子供を宿らせ、最後は捨てるという、最低な男だ。しかし、文中には豊太郎の言い訳のような文が数多く存在する。鴎外は何のためにこのような書き方をしたのだろうか。鴎外が自分自身を豊太郎に投影させている、という前提が分かれば、その言い訳の正体が見えてくる。

著者、森鴎外は、陸軍医の留学生として、22歳の時にドイツ留学をした。そこでエリーゼ、というドイツ人女性と恋に落ちてしまうのだ。当時の日本では、国際結婚など常識的には考えられなかった。そんな中、エリーゼを母親に紹介しようと、彼女を来日させるが、猛反対されてしまう。そして、最終的に、鴎外は家の意向に従い、エリーゼと別れることを決める。鴎外は、エリーゼを捨てたことを心から悔やんでいたであろう。その後、親に半ば無理やり結婚させられた相手とも、離婚した。よっぽど、エリーゼのことを愛していたのであろう。だからこそ、彼は『舞姫』という作品で、彼女を捨てた言い訳を書き、それを自分に言い聞かせずにはいられなかったのであろう。

この作品はこのような文で締めくくられている。「嗚呼、相沢謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。されど我脳裏に一点の彼を憎むこゝろ今日までも残れりけり。」読者の心に最も残るであろう最後の文に、相沢を恨んでいると書かれている。最後の最後に、全ては相沢のせいだと締めくくっているのだ。相沢がエリスを捨て、仕事を取るべきだと豊太郎に言ったことも、豊太郎が大臣に連いて日本に帰ると約束していたことをエリスに教えたのも、全てだ。随分と責任転嫁がひどいような気がする。

他にもこのような言い訳がある。「相沢の助にて日々の生計には窮せざりしが、此恩人は彼を精神的に殺しゝなり。」ここでは、エリスを精神病まで追い詰めたのは相沢だと言っている。人のせいにするのもいい加減にしてほしい。大臣には、ドイツに家族はいないと嘘をつき、エリスには大臣に連いて日本へ帰る、と約束してしまったことを隠していた。大臣も日本へ帰るのだから、どちらにしても、嘘がばれてしまうのは時間の問題であった。それが少し早まっただけで、唯一の友達を恨むとは何事であろう。鴎外は相沢を、交際を猛反対された母親と重ね、彼を使って自分のしたことに対して言い訳しているのだと思う。

このように、『舞姫』という作品の中は、豊太郎の筋違いな言い訳で溢れている。鴎外は自分の犯した罪を、エリーゼを裏切ったことを、豊太郎という人物を使って言い訳したかったのだ。誰に向けたというよりは、彼女を捨てた言い訳を、自分に言い聞かせていたのかもしれない。

櫻井修平


 

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