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『私の舞姫論』 〜森林太郎が伝えたかった明治の日本に対する想い〜
Posted 02/13/2019 02:45PM

 森鴎外の『舞姫』を読んでいると、主人公である豊太郎の心情が、周囲の人間やしきたりによって揺れ動いていることがよく伝わってくる。豊太郎の母親や上司の意見に押されて勉強に励む豊太郎が描かれた後は、恋人となったエリスに夢中となるあまりに離れられない関係となった豊太郎が描かれ、主人公の軸が定まっていない。鴎外が実話をもとに書き出した話とはいえ、「豊太郎」という人物像を通して強く訴えたかった人物像があるのではないかと考える。当時の日本は明治時代であり、奇抜なことはせずに、他と同じでいることが良いことだ、という同調の圧力が充満していた。森林太郎は、こういった日本の古いしきたりと、それを守るのが当然だというような圧力に嫌気がさしていたのだろう。ユニークであり「明治の日本の男」から外れた豊太郎を描くことで、言われたことに従順な「駒」のような男ではなく、豊かな「人の心」を持ち、自分の置かれた立場を広い視野で捉え、自身で自分の進路に悩むことができる男が日本にいてもいいだろう、という想いを鴎外は伝えたかったのではないだろうか。当時、明治の男は正式な恋をすることが許されておらず、自分の目上の者が言うことに従順でなければいけないという経緯があったので、舞姫に登場している豊太郎は真逆の人物像であったとも言える。豊太郎をじっくり観察すると、模範的な態度ではなく、男らしくない優柔不断さや、人間としての芯の弱さが見て取れるが、こういった人物こそ、鴎外が好意を持てる「人間」だったのだろう。当時の日本にあった「同調の圧力」から外れた豊太郎の姿は、機械のような作られたものではなく、真の人間らしい姿であり、読者を魅了させるものであった。

 また、エリスの存在は、豊太郎のパーソナリティーを引き出すのに最適だった。豊太郎にとって、エリスは単なる恋人ではなく、複雑に感情が入り込む存在だったからである。二人の関係の始まりは、豊太郎が好意で困っているエリスに声をかける場面であり、すべては豊太郎の優しさから始まっている。エリスは豊太郎の優しさに惹かれ、二人は親密な仲となり、離れられない関係となった。豊太郎は勉強のためにベルリンに来ていたのは確かだが、完璧に勉強のみに専念せず、人助けの感情を持てたことが、人間である証であるのではないだろうか。前でも触れたように、鴎外の念頭にあった人物像は完璧でルールに従順な人間ではない。そもそも、完璧な人間なんて存在せず、読者が応援したくなるのは、どこか抜けているところがあって完璧でない人物なのである。鴎外は物語を通して、読者に、豊太郎の行動は倫理的にどうなのか、という大きなテーマをずっと考えさせることに成功したと言える。ストーリーではなく、自分が豊太郎のような状況に置かれたらどう行動するかを考えながら物語に入り込めるような状況を作り出している。読んでいる途中に意見をしたくなるような構成と人物像であり、鴎外の創作は素晴らしく質が高い。

 

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